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    冬の稲妻

    こんにちは。ドクターカズです。

     

    金沢では初雪も降り、いよいよ冬本番。

    北陸の冬の風物詩「ブリ起こし」のシーズン到来です。

     

    今日は手術にまつわる思い出話をひとつ。

     

    手術は外科医の他にも、麻酔医や複数の看護師などのチームで行われます。

     

    実際に手術をリードするのは執刀医ですが、執刀医にメスなどの手術器具を手渡すのが、「器械出し」と呼ばれる手術室専属のナースです。

    執刀医が右手を出して器具の名前を発すると、器械出しナースが要求された器具を手渡します。

     

    執刀医と器械出しナースの連携は、スムーズな手術の進行には不可欠です。

    器械出しナースは手術手順を熟知して、必要な器具をあらかじめ予測しながら、執刀医の求めに応じて素早く手渡さなければなりません。

    ここでモタモタしていると、手術が止まってしまします。

     

    私が中堅外科医になりかかっていた頃、関東地方のある大学病院へ、手術見学に行ったことがあります。

    執刀されたのは高名な外科教授で、日本中からその先生の手術を見ようと、見学者が集まっていました。

     

    実際その教授の手術は、見事としか言いようがありませんでした。

    流れるような手さばきで、器械出しナースとの呼吸もピッタリ。

    教授の発する「コッヘル!」、「ペアン!」、「クーパー!」の言葉に間髪を入れず反応して、瞬時に器具を渡すナースの技術も、素晴らしいものがありました。

     

    手術も佳境に差しかかり、手術室の緊張が最高潮になった時のことです。

    その教授は真正面の位置で見学していた私の顔をチラッと見て(少なくとも私はそう感じた)、おもむろに「冬の稲妻!」と言って、器械出しナースに向かって、右手を出されたのです。

     

    私を含めて、手術室にいた面々は、意味が分からずキョトンとしたまま、互いに顔を見合わせるばかり。

    どの器具を手渡していいのか戸惑っているナースに、教授は「冬の稲妻と言えば『アリス』だろう。」と言って、にっこり微笑まれたのです。

     

    「アリス」と言えば、普通は谷村新司がいるフォークグループを思い浮かべますが、ここでの「アリス」は、胃腸の手術でよく使う器具のこと。

    アリスのヒット曲を、ダジャレで引用された教授の思いがけないジョークで、張り詰めていたその場の空気が一気に和み、その後の手術も円滑に進行しました。

     

    手術の後、その教授とお話しする機会はありませんでした。

    初対面の私を、はるばる金沢から来た外科医とご存知だったかどうか、今となっては知る由もありません。

    ですが私は、北陸の「ブリ起こし」に関連付けて、あのようなジョークを仰ったのではないかと、自分勝手に想像して、悦に入っておりました。

     

    さすがに、手術の達人ともなると、ジョークも奥が深いですね。

    緊張していた周りの雰囲気を察知して、上手く機転を利かせて和ませる術など、やはり大物は違います。

     

    後日、金沢に帰ってから、同じジョークネタを、勤めていた病院で使ってみましたが、何回やってもスベッてばかり。

    しまいには、意味を分かってもらえないベテランナースからにらまれる始末。

    それでも、ダジャレの意味をいちいち説明するような、野暮なことはしませんでしたけどね。

     

    この季節、「ブリ起こし」の雷鳴を聞くたびに、にっこり微笑まれた教授の顔が懐かしく思い出されます。

    同時に、自分のお笑いのセンスのなさを、改めて噛みしめるドクターカズなのでした…。

     

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