こんにちは。ドクターカズです。
京都大学の本庶佑教授がノーベル医学・生理学賞を受賞されました。
同じ医学を志したものとして心よりお祝い申し上げたいと思います。
本庶先生が記者会見の席で、若手研究者に向けて述べられたメッセージの中で、私の心に刺さったものがあります。
「教科書に書いてあることを信じるな。」
医学に限らず、世の中の教科書は、天から降ってきたモノではありません。
その道の先人たちが試行錯誤の末に解明し、ほぼ真実に間違いないだろうと認められたことが、記載されています。
ですから、科学の進歩とともに新しい真理が発見されて、教科書が書き変えられることは珍しくありません。
さて、私がまだ新米医師だった頃、手術で切除した胃癌の組織を顕微鏡で観察するのが日課でした。
毎日毎日、夜遅くまで、沢山のプレパラートを覗いては、癌細胞の広がりを確認していました。
その時、胃の表面に、小さな黒い点のようなものが、いくつも見えたのを覚えています。
当時は、胃のような強酸性の環境では、どんな細菌も生存できないというのが常識でした。
そこで私たちは、その黒い点のようなものは、標本を作るときに紛れ込んだ小さなゴミであると結論づけました。
ちょうどその頃、オーストラリアの二人の医師が、胃炎患者の胃の中にある細菌を発見し、それをヘリコバクター・ピロリと名付けました。
そう、今でいうピロリ菌のことです。
二人の発見は、胃の中に細菌はいないという当時の常識を打ち破りました。
おまけに、彼らはピロリ菌をみずから飲んで、それが胃炎の原因になることを、身をもって証明したというではありませんか。
その功績が称えられ、後日二人はノーベル賞を受賞しました。
ピロリ菌は胃炎や胃潰瘍のみならず、最近では胃癌の原因にもなることがわかってきていますから、彼らの発見は医学の発展に欠かせないものでした。
もうお分かりでしょうが、私たちがゴミと思い込んでいたモノが、実はそのピロリ菌だったんですね。
先入観とは恐ろしいもので、私たちは胃酸の中で生きられる細菌は存在しないと、最初から決めつけていました。
つまり教科書を鵜呑みにしていたのです。
ピロリ菌は金属をも溶かしてしまうような強酸の中で、アルカリ性のアンモニアを造り出すことによって、酸を中和しながら生き続けることができます。
細菌の環境への適応能力は、ホントに驚異的です。
「あの頃、もうちょっと常識の殻を破っていたら、もしかして俺も今ごろは…」と、晩酌をしながらほろ酔い気分で私が言えば、「いいえ、あなたは町のお医者さんが天職です。」と即座に妻が現実に引き戻してくれました。
言われてみればその通り。
本庶先生は、基礎医学の研究で世界中の幾多の人々を救いましたが、私は目の前の一人一人の患者さんに、私ができることをしてあげようと思います。
とは言っても、今更ながらに本庶先生の言葉が、つくづく身にしみたドクターカズでした。
蛇足ですが、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一君は、私の高校時代の同期です。
ブログ村に登録しました。
↓バナーをクリックして応援してくださいね
コメントをお書きください